3.新手法の開発

コンテンツ生産にインセンティブを与える方法として、思いついたものは三つあった。「コンテンツ株取引の予測市場」・「マイクロコンテンツファイナンス」・オークションのコンテンツ生産への応用としての「ミズノオークション」である。
それぞれ、簡単に述べると、
「コンテンツ株取引の予測市場」とは、コンテンツ生産前に株を発行し、株価が高くなったものから生産されるというものである。要は「はてなアイデア」のコンテンツ版である。
「マイクロコンテンツファイナンス」とは、コンテンツ生産時に、グループに対して与信を与えてコンテンツを発注し前金を貸し出すことで、やる気を出して生産するための仕組みである。 グラミン銀行のような五人組制度によって、マイクロコンテンツにマイクロファイナンスを行うというものである。
上記二つは巷間でも考えられていることのようだ。実装においては、機能として考慮することになるだろう。
オークションのコンテンツ生産への応用とは、コンテンツ生産過程にオークションを組み込むことで、コンテンツの生産の価格の決定を行うことである。様々な応用の仕方が考えられるが、それは2章で軽く考えた。ここでは、実装に向けて深く考えた「ミズノオークション」について述べたい。


3-1.ミズノオークション(寄付コンテンツカブオークション)
ミズノオークションとは、ドルオークションを複合した差別価格オークションの一種である。
コンテンツの所有権の一部である利益分配権(以下、コンテンツカブ)を、コンテンツ生産前に寄付オークションにかけることに使われることを想定している。
(コンテンツカブの「カブ」とは株式ではなく利益分配権である。宿根性の植物の株分けを想起されたい。)
(寄付オークションとは、オークション形式で行われた寄付全般のことである。)
(寄付オークションは対価の問題により、通常の排他性のある物財の商取引には応用しがたい。ゆえに、ミズノオークションとして定式化されるもの以外は、利用されないだろう。)
名前については、「水のオークション」つまり水利権のオークションのようなイメージを持っていただきたい。もちろん、私の名前が水野であることから命名した。ラリー=ページの「ページランク」のようなものである。
ちなみに、アナロジーについていえば、コンテンツから上がる利益を水に喩えている。水利権は占有権であるが、ここではコンテンツの利益分配権を占有権として捉えている。国の河川の所有権=コンテンツ生産者の著作権、河川管理者=オークション主催者、許可水利権者=コンテンツ株取得者である。

ミズノオークションとは、「売る同質商品1種類複数個:買い手多数」という複数品オークションであり、封印オークションであり、差別価格オークションである。
また、ドルオークションの応用である。ドルの代わりにコンテンツカブを出品し、一番目の支払にはコンテンツカブという対価を渡す。二番目以降の支払いを、主催者=売り手へ行うという規定を、二番目以降の支払いを主催者=売り手=コンテンツ生産者への寄付と看做すとする。ドルオークションの問題点である、サンクコストが埋没しないまま、動的な競り上げ状況が続くという状況に対応するために、オークション(せり)ではなく封印オークション(入札)を採用する。

ルール
「入札前にこのオークションは寄付であり、対価を求めた支払いではないということを明示する。一番高い入札価格をつけた人がコンテンツカブを落札し、二番目以降に高い入札価格をつけた人たちは、何も貰えないが、つけた金額だけオークション主催者に支払わなければならない」というものを設定する。


この方式をとる利点は、以下の三点である。

0.生産される前に値段をつけられる。

1.公共財としての情報財を生産する際には、寄付によって賄うと、コンテンツの利用の非排除性を担保できる。(DRMをかけない、もしくはゆるいDRMで利用可能にできる)

2.人々の支払意思の中の対価を求める部分と対価を求めない部分をバンドリングすることで、寄付を行う人の支払意思を明確にできる。

0は、コンテンツ生産過程に着目すること、1は、寄付に着目すること、2は、オークションに着目することで得られる利点である。0と1については、前章までに詳しく述べたので、以下は、2について述べる。
例えば、通常のチャリティオークションでは、商品の価格+寄付金を一括して主催者=出品者を通して公共財生産団体へと寄付することで、人々の支払意思の中の対価を求める部分と対価を求めない部分をバンドリングしている。その際には、商品が欲しくて商品の価格を競り上げることの中に寄付をしたいことを混ぜて、結果として商品の価格を競り上げて、寄付の額を大きくしている。
これは以下のように説明できる。寄付を行う人は自分がその公共財からどれだけの効用を得ているのか明確に理解していないため、明確な対価を求めず、また、明確な対価を支払わない。明確に理解していても、少ない対価で済まそうとすることが多い。そこで自発的意思に基づく寄付金をより正直に払うようにするために、寄付に対してインセンティブをつける。政府が行う場合、税控除をつけることが多いが、民間で行う場合は、物品販売とのバンドリングや、営利主体による寄付の上乗せ、などを行うことが多い。どちらにしろ、寄付への意思を何かとバンドリングすることで寄付を行う人の支払意思を明確化している。寄付と懸賞のバンドリングもたまに行われる。ここでは、寄付とコンテンツカブのオークションのバンドリングを行っている。
オークションという形式をとることで、通常のバンドリングと異なり、高い値をつけた場合には、対価としてのコンテンツカブが手に入るかもしれないというインセンティブがあるため、より高い値段をつけようとする。また、その際にバンドリングされるものは、コンテンツカブつまりコンテンツからの利益分配権に対する評価と、寄付金=自分がコンテンツから得られる利益である。コンテンツカブに対する評価額が高い=他の多くの人が生産後の公共財に対して寄付をすると考えているということは、自分もそのコンテンツに対する評価額が高い場合が多いと考えられる。(自分が好まないものを生産することを望むことは、マイクロコンテンツの生産ではあまりないと考えられる)
他人がコンテンツから得られる利益を分配してもらう可能性とバンドリングすることによって、自分がコンテンツから得られるであろう利益の評価を明白にするというインセンティブを付与することができる、と考えられる。


3-2.プラットフォームへの実装案

編集者・生産者・消費者兼投資家に対してプラットフォームを提供する。
編集者が主体となり雑誌のような記事群の概要をつくる。
その記事群を生産者に対して逆オークションすると同時に、消費者に対してミズノオークションする。
消費者からの寄付の総額が、生産者の生産希望価格を上回れば、生産が行われる。
プラットフォーム提供者は、ミズノオークションに対して利用手数料を課す。
また、広告収入・あれば生産後のコンテンツからの収入、に対して利益分配権を、生産者80%・筆頭投資家10%・プラットフォーム提供者10%くらいで付与しておいて、分配する。

より細かいプランは本稿の趣旨を外れるためここでは述べない。
問題になる点として、
・マイクロコンテンツの対象としてどこまでが適用可能なのか。
(最初はテキストだとしてもどの分野のテキストにするか)
・生産側・需要側ともにある程度の人数がいるコンテンツでないと、オークションが実現しない。
などが挙げられる。
それは、実際にやってみれば、おいおい判明していくであろう。

(後日追記:現状、こういったサイトは存在しない。ミズノオークション自体の応用としては、投資意思決定における管理会計の仕組みとして使えると思い、応用を考えている。広い意味でのコンテンツの生産の中でもブランドの生産の際のブランド構築費(特にグローバルタレントとの契約費)の部門ごとへの配賦を考える際に、今まではケインズの言う意味での美人投票で行っていた意思決定が、ミズノオークションで行えるようになると思う)