2.コンテンツ生産のオークション方法の分類

コンテンツ生産をオークションする方法を分類する。コンテンツ生産をオークションするとは、コンテンツの生産過程に、オークションの仕組みを取り入れることである。これによって、コンテンツの生産の価格を決定することができるようになる。
分類と開発というのは、理論的な可能性空間を設定し、その中での分類を考えながら、既存のビジネスモデルにはない新しいものを探索するということである。
(コンテンツの生産の価格を決定するとは、コンテンツの価格を決定することではない。完成したコンテンツの価格をオークションで求めることは、情報財の特性上、不可能ではないが難しい。
コンテンツの価格は消費者が認める価格ならば、恣意的に決定することができる。代替品との不完全競争によってその値段は限りなく0へと近づいていくが、ブランドによる独占性のあるコンテンツ・新しいコンテンツの価値は高いためバージョニングによって利益を上げることができるだろう。)



2-1.オークション手法の分類
オークションとは、販売の目的でオークション市場に出品された物品・サービスに対して、買い手が価格を競りながら最終的に最も高い価格を提示した買い手が購入できる販売方式である。

よく使われるオークション手法は、扱う商品の種類:個別商品=単一財を扱うか同質商品=複数財を扱うか、売り手と買い手のどちらを固定するか:複数品オークションか逆オークションか、情報の非対称性の有無:せりか入札か、の基準で分類できる。
扱う商品の種類で、まず分類する。通常のオークションでは商品を一つしかない希少な財(単一財:個別商品)として扱うために、必然的に売り手側の供給曲線が固定され、価格が競り上る。「売る個別商品1:買い手多数」の状況である。複数個ある同質で希少性が低い財(複数財:同質商品)として扱う場合は、売り手側の供給曲線を固定すると複数品オークション(ダッチオークション)に、買い手側の需要曲線を固定すると逆オークションとなる。それらをオークション(せり)と封印オークション(入札)に分類する。するとオークションの六つの類型が得られる。



2-1-1.よく使われるオークションの六つの類型

■オークション
「売る個別商品1つ:買い手多数」

  • 1.オークション(イングリッシュオークション)

通常のオークションである。
例:ビッダーズヤフーオークション、ebayの単数品オークションなど

  • 2.封印オークション

最高価格・入札履歴が目に見えないオークション。
例:政府所有物品の一般競争入札など


■複数品オークション
「売る同質商品1種類複数個:買い手多数」

  • 3.非封印複数品オークション(非封印ダッチオークション)

複数のものを出品し、最高価格・入札履歴が目に見える。

  • 4.ダッチオークション(複数品封印オークション)

入札が同時に行われる間、他の入札者の価格はわからない。
例:複数落札制度など


■逆オークション(反転オークション)
「売り手多数:買う同質商品1種類1つ」

  • 5.逆オークション

例:プライスラインの航空券逆オークションなど

  • 6.逆封印オークション

例:事業の発注の競争入札など


参考資料:政府のせりと入札による様々な売却方法
主な売却方法の比 較



2-1-2.有名なオークションの概念説明
様々なルールのオークションの説明は以下の通りである。本論考では、以下に述べられているオークション以外は、分類のために造語したオークション名を使用している。注意されたい。

■逆オークション(reverse auction)
逆オークションでは、ある商品を買う者が欲しい商品の条件や希望金額を提示し、売り手の間で価格入札を行わせて、最も安い価格を入札した者から購入を決定する。すなわち、買い手が売り手を選定している。 通常のオークションとは、オークションされる商品の種類と売り手・買い手の組合せが異なる。通常のオークションでは「売る個別商品1:買い手多数」であるが、逆オークションでは「売り手多数:買う同質商品1」である。また、そのため値段をだんだん下げていくというオークションのかたちを当然とることになる。

■封印オークション(Sealed-Bid Auction)
入札者が入札を行う際に、他の入札者がつけた価格情報(最高価格・入札履歴)が分からないようにするオークション。それによって、談合を禁止した場合、自分の入札価格を正直に提出するインセンティブを付与することができる。

■ダッチ・オークション(Dutch auction)(差別価格オークションも含む)
同質商品(複数財)が複数個ある場合、落札者の中で最低価格をつけた人と同じ価格ですべての落札者が購入できるという方式
ダッチオークションのような複数財オークションについては、同一価格オークションと差別価格オークションに分けられる。同一価格オークションが通常のダッチオークションである。
差別価格オークションとは、入札者リストの入札額が高いほうから順番に、商品の個数分だけ、入札者ごとの入札額で販売するという方式。差別価格オークションについても、様々な亜種、ヴィックリー・オークション、オーサベル・オークション、メニュー・オークションがある。各々のオークションにおいて必要に応じて情報の非対称性の有無・入札方法・落札価格の決定方法が設定される。
各種オークションの概要:坂原樹麗
(後日追記:リンク切れ。また、ミルグラムのオークション理論(メカニズムデザイン理論)によると、各種オークションは新古典派経済学的観点から見た単なる差別価格オークションではない。需要曲線と供給曲線の構成自体の話であるようだ。ゆえに上記の言い方には語弊がある。)

■シュービックのドルオークション(The Dollar Auction)
1ドル札をオークションにかける。その際のルールとして、「一番高い競値をつけた人が1ドル札を落札し、二番目に高い競り値をつけた人は、何も貰えないが、つけた金額だけオークション主催者に支払わなければならない」というものを設定する。すると、一度オークションに参加した人は、競っている途中で損をしたくないと思い、値を吊り上げることになる。
一人目が1ドルと二人目が99セントをつけた時点で、決着するはずだが、その時点での追加の2セントで99セントの損失をカバーできるために、入札することが合理的になる。サンクコスト(埋没費用) を切り捨てる損切りの考え方をとりいれることでこれは解決できるように見えるが、オークションに参加中の時点では費用はまだ確定していないため、解決できない。モデルとしては、ゲーム理論の「囚人のジレンマ」でモデル化できるため、「囚人のジレンマ」の解決手法をいくつか応用できる。



2-1-3.実際に使われているオークションの分類

楽天のスーパーオークションの分類


楽天スーパーオークションでは2種類の「入札状況」、3種類の「入札形式」からそれぞれひとつが選ばれ、計6形態の出品方法が混在しています。
オープンとは入札履歴が開示されているオークションを、クローズドとは入札履歴が非公開のオークションをクローズドオークションといいます。
取り扱い個数が1個のオークションはすべてシングルオークションです。入札価格が一番高い方が落札対象者となり、入札した価格での購入が可能となります。
(パワーオークションとは、)入札価格の高いほうから順に落札対象者となり、入札した価格での購入が可能となるオークションです。
(ダッチオークションとは、)別名、ボトムラインオークションとも言われる方法で、同一商品が複数個ある場合に、最も高い価格での入札から順番に、出品されている個数分が落札対象となります。また、落札対象者の中で付けられた、最も低い価格で全員購入することが可能です。
楽天市場Q&Aより


これは、(入札形式)単一財か複数財かで分けて、その複数財オークションを落札設定価格で分けたものを、(入札状況)競り上げながら入札であるか否かで分けたものである。
出品したものの入札履歴が目に見えないのが、本来の封印オークションであるが、ネットオークションでは価格が競りあがるように、封印オークションにおいても、最高入札額のみを表示する。以下、これを「競り上げながら入札」と名づける。
(後日追記:これは、ミルグラムの標準的教科書の翻訳によると、一般的には「競り上げオークション」と翻訳されるタイプのオークション形式の一部であるようだ。「競り上げオークション」は、もっと幅広い形式のオークションの設計自体を指す。)
楽天スーパーオークションの用語を、本論考で使われる用語と対照させ、他の日本の汎用オークションサイトの一部オークションも事例としてあげる。

【凡例:楽天でのオークション名(=本論考でのオークション名)】

■シングルオークション(=オークション)

  • オープンオークション(=オークション)
  • クローズドオークション(=競り上げながら入札)

■パワーオークション(=差別価格オークション)

  • オープンパワーオークション(=差別価格オークション)
  • クローズドパワーオークション(=封印差別価格オークション)

事例:ヤフーオークションでの複数出品(封印差別価格オークションだが、上から複数個の価格が見える。ちょっとだけ封印した差別価格オークション=差別価格競り上げながら入札)

■ダッチオークション(=複数品オークション)

  • オープンダッチオークション(=非封印複数品オークション)
  • クローズドダッチオークション(=ダッチオークション亜種・複数品競り上げながら入札)

事例:ビッダーズオークションでの複数出品(ダッチオークションだが最高価格が見える。複数品競り上げながら入札)
となる。




2-2.コンテンツ生産のオークション手法の分類
コンテンツ生産のオークションとは実質的には所有権つまりコンテンツの株式をオークションにかけることである。株式は同質商品である。
そのため、使用するオークションを、ダッチオークション(売り手によるコンテンツの生産)と逆オークション(買い手によるコンテンツの発注)とに分類する。せりか入札か、最低価格の設定は具体的な応用において問題となる。

■ダッチオークション(売り手によるコンテンツの生産)
「売る同質商品1種類複数個:買い手多数」
コンテンツファイナンスを、ブックビルディングではなくて、ダッチオークションで行う。
コンテンツの株式をオークションにかけるには、ダッチオークション型のIPOの形式に従い、入札を行い販売することができる。
例:グーグルのIPO
その際には、差別価格オークションもとることができる。
また、理論的には、ヴィックリー・オークション、オーサベル・オークション、メニュー・オークションをとることもできる。

■逆オークション(買い手によるコンテンツの発注)
「売り手多数:買う同質商品1種類1つ」
コンテンツの生産を逆オークションにより行う。
コンテンツの発注を競争入札するには、ほしいコンテンツを要望し、それに応えてコンテンツの概要と入札価格が集まり、そこから一点を発注するというかたちになる。Q&Aサイト型のコンテンツの発注がそれに近いが、コンペ参加料としての回答料を払った後で、さらに、詳しい回答を求めて前金を払い、その後、詳しい回答がなされたら後金を払うという方法をとれるという受注生産型のQ&Aサイトのようなものを念頭においている。
また、受託調査等のコンテンツ提供サービスを逆オークションにかけるサイトも考えられる。


2-3.マイクロコンテンツにおける売り手と買い手
小規模なコンテンツファイナンスでは、売り手を、生産者として、買い手を、発注者兼投資家兼消費者であるとすることができる。受注生産の発注者は、契約により所有権の一部の利益分配の権利を求めることで投資家になる。また、発注者は主として自分が読みたいから発注するために第一の消費者でもある。

事例:ミュージックセキュリティーズ


また、マイクロコンテンツにおける買い手から売り手への支払いは寄付であると看做すことができる。
寄付と支払いの経済学的な差は何であろうか。それは、購入する財の種類の違いである。寄付は公共財を購入するが、支払いは私有財を購入する。寄付は公共財の生産への主観的受益者からの自発的な税金の供出であると看做すことができる。つまり、寄付は、公共財の生産関数に対する支払いである。情報財という公共財においては情報生産労働者の賃金が生産関数のほとんどを形成する。そこで、寄付は、情報財の生産に関わる人への賃金の支払いであると看做すことができる。
生産された情報財は完全に非競合的な純粋公共財である。しかし、生産される前の情報財は生産コストに競合性のある準公共財である。また、利用制限やコピー制限がかけられた情報財は、競合性はないが排他性はある私有財である。(生産される前の情報財=生産コストに競合性のある準公共財を、レッシグ(2001)を参考に共有財(コモンズ)と呼ぶこともできる。)
公共財としての情報財の消費者は、どのように情報財の生産に対して対価を払えばよいのだろうか。公共経済学によると、税金またはその代替物としての寄付、ここではつまり情報財の生産に関わる人への賃金の支払いによって行うのが非排他的な財の利用を最も効率化する。
そこで、マイクロコンテンツの生産におけるファイナンスにおいて、情報財の生産に関わる人への発注者による賃金の支払を、基本的に寄付であると看做す。その対価は、できあがった公共財としてのコンテンツの閲覧・利用である。その上で、既存の著作権の上に契約による利益分配スキームを重ねて、利益分配権という対価を求める投資家による投資として、生産者の権利・一部投資家の権利を規定する。(生産者の著作者人格権は保持される)

参考資料:非営利セクター寄付金市場の日米比較