パーフィット1

On What Matters (Berkeley Tanner Lectures) 2 volumes set

On What Matters (Berkeley Tanner Lectures) 2 volumes set

デレク・パーフィットの「On What Matters」が発売されたようだ。
「理由と人格」のあとがきで紹介されていたのだが、やっと発売されたという感じである。
装丁が美しいので飾っておくにもよい本であると思う。
この後にも、いずれ、「理由と人格と現実」という改訂本、その後、時間があれば、「真理・悪・崇高」という本を書きたいらしい。
あと、どうやら、秋には、ソール・クリプキの論文集「Philosophical Troubles: Collected Papers」も発売のようだ。

気づくのが少し遅れたが、円高だし注文することにした。今、洋書が安い。でも、興味があるところしか、なかなか読めないところだと思う。分析哲学の本は、一通り読み通すと、考え方が変わったり、新しい考え方が身につくので、時間に余裕のあるときに読むようにしている。

理由と人格では、既存の倫理学説で扱われる「理由」を問い直し、合理性と時間についての考察から、人格の同一性が、倫理学や政治哲学の分野での効用の算定や、配分的正義と平等原理をどう扱うかについての帰結主義功利主義的な説明に、大きな影響を与えることを述べて、最後に、その応用問題として、環境問題を煽るのではなく、経済問題と人口問題が環境制約を受けているという視点から、世代間倫理をどのように調節するかについて、その際、どういった倫理学的な議論がありうるのかについて述べている。
過剰に抽象的な言葉と、SF的な事例をもちいて、議論を展開しているのでわかりにくいが、この問題たちは、実際の現在、人類が直面している課題なのである。
第18章の「単純追加パラドックス」が課題であり、その解説から「On What Matters / 重要なことについて」の議論は始まるとのことだが、僕は、この第18章について何度か議論したことがあるのだが、問題の具体性について、多くの人は真剣に考えておらず、思考実験としてパラドックス扱いしてしまっている。しかし、まじめに取り上げて議論していた人たちもイギリスやアメリカ、日本にもいるようだ。具体例に代入して考える場合、途上国の人口爆発や、先進国の少子化不妊治療技術の進展や、消費社会化の進展と避妊手段の普及・中国政府の「一人っ子政策」の推進(また、西アジアやアフリカでも受胎率のコントロールがウイルス散布などで可能ではないかとのSF的設定による補完)などによって、地球の人口動態が劇的に変化した二十世紀を経て、二十一世紀の地球人口の総管理政策はどのように行われるべきかという議論なのである。国連人口計画は、現状では計画だけを行うが、当初の計画では実行力をもっと手に入れているはずだったのが、ジュリアン・ハクスリーの宗教界や一般欧米人への評判が悪く、現状のような形になってしまった。人口統制の議論は欧米ではアジアよりもタブーなのである。アジアは、中国が無茶な「一人っ子政策」を推進したので、少なくとも日本では総体としての人口政策を議論することに対するタブーは、宗教界以外ではそれほどない。